2016年06月06日
新・シマとの対話~第27話「レガシー」
2016年8月28日、夏。
現代版組踊『鬼鷲―うにわし―』の公演が決まった。
今月6月1日よりチケットの予約受付も始まった。
今回の「鬼鷲」公演には現代版組踊の先駆をきる意味で、
目指すべき3つの大きなチャレンジがある。
1つ目は、国立劇場おきなわ公演の実現、
2つ目はくるちの杜100年プロジェクトとのコラボ企画の実現、
そして3つ目はスペシャルゲストが奏でる音楽と
沖縄の中・高生達との競演が実現するという挑みである。
1999年に誕生した現代版組踊は
「肝高の阿麻和利」をはじめ、
全国で10を越える団体が地域毎に、
独自の活動を展開しているが、
立ち上げに関わった一人である僕は、
2011年(平成23年)の沖縄県庁での公職に就いたのを機に
全ての演出や指導、
監修も含め現場の一線から一時期遠ざかった。
後継の育成や本来依って立つ地域のサポーターを中心に
新たな機軸を創出して貰いたい思いからである。
その甲斐あって、
2013年7月には「現代版組踊推進協議会」が設立され、
この取り組みは「組踊」と言う沖縄の伝統文化を基調としながらも
全国にその裾野を広げ続けている。
一方で依って立つ地域がない舞台作品も存在する。
依って立つ地域が「無い」と言うよりは
「依って立つには広域過ぎる」と言った方が良いかも知れない。
例えば舞台「鬼鷲」がそうである。
琉球三山を統一した全琉的偉人のはずの尚巴志は、
ある意味、全県的存在であるがために埋没していた。
勿論
陽の目を見なかったのには歴史的にも様々な思惑があったわけだが…
詳しい話しは舞台の中で語るとして、
いずれにしても現場を離れていた僕が
また再びの演出という場所に戻ってきたのには
僕なりの使命を感じたからであった。
ある先輩舞台人は
「世界に同じ演出家は二人いらない!」と豪語していた。
またある人は
「先駆的な生き方こそリーダーの異名である!」とも。
僕はこれらの考え方に激しく共鳴する。
「世界に一つしかない作品を目指す」
「常に時代の先を疾走する」ことは全ての出来事を主体的に捉え、
自発能動的に発想することから始まる。
物事に対して「主体的」に向き合うことで課題は価値に、
ピンチはチャンスに、
鎖は根っこに変わっていく。
つまり「我が使命の自覚」こそ、
何よりも尊重しなくてはいけないものであり、
自覚した「命」はその通りに「使」わなくてはならないのである。
中国のグランドマスターも言っていたではないか
「前に進むことだけを考えて止まることを考えるな」と。
前略 南ぬシマジマ
2005年8月の阿麻和利公演以来、
現代版組踊作品は国立劇場おきなわでの
舞台上演をしていない。
理由の一つは端的に
「新たな挑戦」が成されてこなかったからだろうと考える。
元来
伝統芸能の殿堂と呼ばれる国立劇場において
青少年文化団体の利活率はほとんどない。
子どもが主役の舞台としては敷居が高いとも揶揄され、
その為11年前の中高生による「阿麻和利公演」は
全国的にも画期的と評された。
人は「器」に合わせて成長していくモノでもある。
11年が経過した今回も、
若々しい感性もそのままに「国立劇場」と言う
大器の上で果敢に挑戦する出演者に期待して貰いたい。
歴史は過去の遺産ではなく
古くて新しい「今も生きる物語」なのである。
(南島詩人/平田大一)
※YouTubeでは、平田大一さんの肉声で放送中!
※毎月1日と15日に隔週で連載していきます!
どうぞお楽しみに!!
書籍版『シマとの対話』が販売中!
南島詩人・平田大一と桑村ヒロシ(KUWA)の写真が
コラボレーションした、情熱と感動の作品集!!(在庫僅少)
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文:南島詩人・平田大一 / 写真:桑村ヒロシ(KUWA)
出版:ボーダーインク
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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at
16:14
2016年05月15日
新・シマとの対話~第26話「サイン(前編)」
いつもそうだが
初演の舞台というのは印象深い。
「沖縄偉人劇 屋良朝苗物語 一条の光を求めて」
2015年12月20日読谷村文化センターでの舞台初日、
読谷・嘉手納の学校への呼び掛けに応えた出演者は僅かに十数名。
かくして一人三役・四役の配役になり、
「屋良朝苗」役にも女子(知花杏樹さん)を抜擢した。
ただ、結果としてそれが良かった。
屋良先生の大衆に対する慈愛に満ちた行動は
教育者としての「母性愛」そのものだし、
「鈍角的政治手法」や「布石論的思考」等の
しなやかな行動力学でなければ
「復帰」という大偉業は成し遂げられなかったと
確信するからである。
民衆に寄り添う「母性」と、
権力に立ち向かう「父性」と両方を持ち合わせた
「人間 屋良朝苗」の実像が浮かび上がり、
満員の客席から大きな拍手を頂き大成功であった。
僕は、初演の感動も冷めやらない年明けに、
不思議な「感」が働いて「那覇市民会館での再演」を
考え始めていた。
噂で、老朽化に伴い会館の使用制限が出ると聞こえてきたからである。
44年前、復帰記念式典会場であった那覇市民会館での
屋良舞台の上演はこの機を逃してはあり得ない!
と東奔西走し、短期戦にもかかわらず上演が実現できることは
奇跡であり、関係者の尽力に心から感謝申し上げたい。
否!
むしろ、全てに意味があったんだと思う。
開演時間の午前10時半と午後2時も
様々な都合でそう決まったのだが、
後から44年前の政府主催の復帰記念式典開始時間(午前10時半)と、
新生沖縄県主催の発足記念式典の開始時間(午後2時)と
ぴったり符合していることにも気がつき
鳥肌が立った。
「舞台」に導かれてここに立っている感覚に
自分の行く末を観た。
前略 南ぬシマジマ
余りにも不思議な偶然が重なる出来事にふと、考えたんだ。
こうなると公演日の5月14日にも、何か意味があったのか…と。
とてつもないドラマを感じて、屋良先生の手記を紐解くと
「時計に見いった14日深夜」のページに釘付けになった。
14日夜の高等弁務官夫妻主催の晩餐会は、午後11時頃まで約3時間も続いた。ランパート高等弁務官は、「15日から私は沖縄にいてはいけない人間だ」と言われ、15日の午前零時を期して沖縄の地を離れることとなった。
晩餐会が終わると、高等弁務官夫妻はその場から嘉手納米空軍基地に 直行した。私達夫婦も見送りのため同基地に向かった。待つことしばらく、実際には4、5分程度だったろうが、私は一心に時計に見入り「あと1分」「あと10秒」と数えた。時計の針が15日午前零時を示した。その瞬間、新生沖縄県が誕生した。遂に復帰が実現したのだ。
終戦後27年間、異民族支配下のさまざまな出来事が走馬燈のように私の頭に去来した。その不健全な、仮の時代にいま終止符が打たれた。まさに万感こもごも。歴史は転換し、未来に向かって発展しゆくスタートラインに着いた。
私は基地の中で周囲を見渡した。しかし何も変わるモノがない。復帰の 瞬間、船や役所、工場は、汽笛やサイレンを鳴らすことになっていたが、広い基地内にいたためかそれも聞こえなかった。感慨無量とは言うものの、復帰の実感はなかなかわかなかった。
午前零時、高等弁務官は弁務官旗をたたみ、それを納める儀式のあと、たくさんの見送り一人ひとり別れの握手をして機上の人となった。特別機が実際に離陸したのは午前零時15分ごろだった。
(「屋良朝苗回顧録」より)
そうか…、
44年前の1972年5月14日は、アメリカ世最後の日だった。
アメリカ統治下の午後11時59分59秒と復帰を果たした午前零時!
44年前の5月14日は、まだ別の国だったってことか。
目に見える境界線はないが、「時間」とはそう言うものであり、
初めて「復帰」をリアルに感じた瞬間!
関わる全ての出来事が「気づき」へのサインなんだと、
また一つ、舞台から教わった気がした。
(南島詩人/平田大一)
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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at
17:53
2016年04月22日
新・シマとの対話~第25話「Roots~南島詩人誕生」
芸能人になるな
芸人になれ!
富さんから届いた年賀状には
躍るような筆文字でそう添えられていた。
芸能人になるな
芸人になれ!
大学生活5年目もまもなく終わる渋谷の街角で
64大学対抗のライブコンクールに出場した僕は、
思いがけず最高賞にあたるベストプレイヤーズ賞を獲得
その後関東を中心にお金にはならない舞台を
仲間達と展開していた。
受賞を機に審査員をしていたプロデューサーから声がかかったが
そこは生意気盛りの若者らしく
申し出を派手に断り
俺たちは既成の枠には囚われないんだ!
好きに暴れてやるんだ!
やりたい様に発信するんだ、と息巻き
司会者に何て言うジャンルかを問われれば
メッセージ・パフォーマンス!
グループ名を聞かれれば
インエクスプリケーブル・ネオ・ユニッツ
「既成の枠に囚われない新しい団体」
と恥ずかしげもなくズバリ!豪語していた。
勢い余ってシマに帰る宣言を発した僕は
凱旋公演と勝手に銘打ち
仲間達と一緒に自腹覚悟の舞台を企画
竣工直後のパレット市民劇場で
初の自主企画公演を開催した。
興行は笑えるほどの大失敗!
本番当日に台風大接近の当たりくじで
キャパ450席の会場を埋めてくれたのは
僅かに60人程度の友人、知人、風除けの為に
紛れ込んだ客ばかり!
マル赤字決定の筈なのに気分は晴れ晴れしていた。
搬出作業の時の満月には笑った。
舞台終演と共に早足の台風はその背中さえも見えなかった。
道は無尽蔵に広がっていた。
何処を向いても正面の様な人生に
僕は潔さを感じていた。
マツリが終わった後、島に帰り
桟橋の小さなお店で父の稼業を手伝いながら
笛や三線を爪弾く日々。
鼻息荒い勢いだけの僕がそこにいた。
そんなある日の新年、
届いた年賀状は東京の知人の富さんからだった。
芸能人になるな
芸人になれ!
そう書き添えてあった筆文字は
懐かしい富さんそのままで
だけど僕のカラダに小さく電流が走ったのは分かった。
僕は記憶の中の富さんに問い質す。
富さん、あのコトバの意味って何ですか?
ジブンデカンガエレ…
多分、東北生まれの富さんは
寡黙に何も語らないのだろう。
結局僕は一人、
自問自答を始めた。
22歳の頃の話だ、
まだ僕がナンデモナイ頃の話だ。
富さんこと「富所さん」は、
僕が大学生の時にお世話になっていた
東京飯田橋のバイト先の編集部の人で、
詩人でもあった。
僕の実家である民宿に泊まった
掛さんこと「掛川さん」の紹介で知り合いになり、
大学入学を機に上京した南の小さな島生まれの
僕の身を案じ、
何かと都会暮らしの平田青年の世話をやいてくれた
恩人でもある。
あれは、何回りか前の閏年の2月29日、
確か僕が大学1年の18の春。
掛さん、富さんの計らいで
僕は四ツ谷の詩の館「コタン」と言うライブハウスで、
初めてのワンマンライブを行った。
全3部構成、休憩込みの4時間を
1人でひたすらに頑張った。
第1部「動の平田大一」60分
笛、踊り、空手などの舞披露
20分休憩。
第2部「静の平田大一」60分
自作の詩の朗読、ノート30冊からの紹介全17編
20分休憩。
第3部「全ての平田大一」60分
20分締め括りで終演。
演出の富さんは僕が選曲したBGMを流しては
ちょっとした雰囲気の照明をスイッチングする
音響屋と照明屋も兼ねていた。
第3部に至っては何でもありのプログラムで、
幼い頃の芸風であるモノマネから、
島から届いたアンダギーの配布と続き、
これもまた郵送で届いたばかりのサトウキビの食べ方実演会に、場内は沸いた!
極め付けだったのは、高校時代の弁論大会全国優勝原稿の発表という大特典付き!
20名入れば満席のライブハウスは
60名余りがひしめき合う
異常なまでの熱気に溢れかえっていた。
店長の木村さんが熱を帯びた顔で僕にこう言った。
「おいオキナワくん、おめーの磁力すげーな!」
南島詩人、誕生の瞬間だった。
前略 南のシマジマ
経緯は覚えていないが、
埼玉での学校公演の時、
新内流しの三味線の奏者とご一緒した。
島に戻ってしばらく経った
僕が25歳くらいの頃だ。
90歳近いカクシャクとした素敵なご老人で、
爪弾く三味線の音色にはまるで高齢者の雰囲気はなく
むしろ瑞々しい感性に感心していた。
楽屋での会話で年齢の話題になった時に
彼がこう言った。
「平田さん、アタシら芸人には引退がありませんからね、一生現役なんですよ。」
その瞬間!
あ、そーか、と答えが降ってきた。
流行り廃りがあり、人気に左右されるのが芸能人で、
一生現役でやり続けるのが芸人ではないか、と。
人はテレビで観なくなると
「あいつももう落ち目だな」と、
勝手に決めつける傾向性があり、
その偏った価値観のまま、
テレビからの情報を鵜呑みにする癖がある。
テレビに取り上げられているから売れている
テレビに出なくなったら落ち目だと言う感覚。
そんな大衆の批判や評価に迎合せず、
または右往左往せず、
我が道をひたすら極めて行く「人」になれ!
富さんの年賀状の筆文字の問いかけに、
僕は自分なりの「答え」を導き出した。
芸能人になるな
芸人になれ!
タレントや有名人、アーティストや何者でもない
僕が「南島詩人」を生涯の肩書きに決めたのは
まさに!その時だったのかも知れない。
人生において大切なことは
「良い出会い」これに尽きる。
それが、まぎれもない僕の実感である。
(南島詩人/平田大一)
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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at
09:58