2016年04月22日
新・シマとの対話~第25話「Roots~南島詩人誕生」
芸能人になるな
芸人になれ!
富さんから届いた年賀状には
躍るような筆文字でそう添えられていた。
芸能人になるな
芸人になれ!
大学生活5年目もまもなく終わる渋谷の街角で
64大学対抗のライブコンクールに出場した僕は、
思いがけず最高賞にあたるベストプレイヤーズ賞を獲得
その後関東を中心にお金にはならない舞台を
仲間達と展開していた。
受賞を機に審査員をしていたプロデューサーから声がかかったが
そこは生意気盛りの若者らしく
申し出を派手に断り
俺たちは既成の枠には囚われないんだ!
好きに暴れてやるんだ!
やりたい様に発信するんだ、と息巻き
司会者に何て言うジャンルかを問われれば
メッセージ・パフォーマンス!
グループ名を聞かれれば
インエクスプリケーブル・ネオ・ユニッツ
「既成の枠に囚われない新しい団体」
と恥ずかしげもなくズバリ!豪語していた。
勢い余ってシマに帰る宣言を発した僕は
凱旋公演と勝手に銘打ち
仲間達と一緒に自腹覚悟の舞台を企画
竣工直後のパレット市民劇場で
初の自主企画公演を開催した。
興行は笑えるほどの大失敗!
本番当日に台風大接近の当たりくじで
キャパ450席の会場を埋めてくれたのは
僅かに60人程度の友人、知人、風除けの為に
紛れ込んだ客ばかり!
マル赤字決定の筈なのに気分は晴れ晴れしていた。
搬出作業の時の満月には笑った。
舞台終演と共に早足の台風はその背中さえも見えなかった。
道は無尽蔵に広がっていた。
何処を向いても正面の様な人生に
僕は潔さを感じていた。
マツリが終わった後、島に帰り
桟橋の小さなお店で父の稼業を手伝いながら
笛や三線を爪弾く日々。
鼻息荒い勢いだけの僕がそこにいた。
そんなある日の新年、
届いた年賀状は東京の知人の富さんからだった。
芸能人になるな
芸人になれ!
そう書き添えてあった筆文字は
懐かしい富さんそのままで
だけど僕のカラダに小さく電流が走ったのは分かった。
僕は記憶の中の富さんに問い質す。
富さん、あのコトバの意味って何ですか?
ジブンデカンガエレ…
多分、東北生まれの富さんは
寡黙に何も語らないのだろう。
結局僕は一人、
自問自答を始めた。
22歳の頃の話だ、
まだ僕がナンデモナイ頃の話だ。
富さんこと「富所さん」は、
僕が大学生の時にお世話になっていた
東京飯田橋のバイト先の編集部の人で、
詩人でもあった。
僕の実家である民宿に泊まった
掛さんこと「掛川さん」の紹介で知り合いになり、
大学入学を機に上京した南の小さな島生まれの
僕の身を案じ、
何かと都会暮らしの平田青年の世話をやいてくれた
恩人でもある。
あれは、何回りか前の閏年の2月29日、
確か僕が大学1年の18の春。
掛さん、富さんの計らいで
僕は四ツ谷の詩の館「コタン」と言うライブハウスで、
初めてのワンマンライブを行った。
全3部構成、休憩込みの4時間を
1人でひたすらに頑張った。
第1部「動の平田大一」60分
笛、踊り、空手などの舞披露
20分休憩。
第2部「静の平田大一」60分
自作の詩の朗読、ノート30冊からの紹介全17編
20分休憩。
第3部「全ての平田大一」60分
20分締め括りで終演。
演出の富さんは僕が選曲したBGMを流しては
ちょっとした雰囲気の照明をスイッチングする
音響屋と照明屋も兼ねていた。
第3部に至っては何でもありのプログラムで、
幼い頃の芸風であるモノマネから、
島から届いたアンダギーの配布と続き、
これもまた郵送で届いたばかりのサトウキビの食べ方実演会に、場内は沸いた!
極め付けだったのは、高校時代の弁論大会全国優勝原稿の発表という大特典付き!
20名入れば満席のライブハウスは
60名余りがひしめき合う
異常なまでの熱気に溢れかえっていた。
店長の木村さんが熱を帯びた顔で僕にこう言った。
「おいオキナワくん、おめーの磁力すげーな!」
南島詩人、誕生の瞬間だった。
前略 南のシマジマ
経緯は覚えていないが、
埼玉での学校公演の時、
新内流しの三味線の奏者とご一緒した。
島に戻ってしばらく経った
僕が25歳くらいの頃だ。
90歳近いカクシャクとした素敵なご老人で、
爪弾く三味線の音色にはまるで高齢者の雰囲気はなく
むしろ瑞々しい感性に感心していた。
楽屋での会話で年齢の話題になった時に
彼がこう言った。
「平田さん、アタシら芸人には引退がありませんからね、一生現役なんですよ。」
その瞬間!
あ、そーか、と答えが降ってきた。
流行り廃りがあり、人気に左右されるのが芸能人で、
一生現役でやり続けるのが芸人ではないか、と。
人はテレビで観なくなると
「あいつももう落ち目だな」と、
勝手に決めつける傾向性があり、
その偏った価値観のまま、
テレビからの情報を鵜呑みにする癖がある。
テレビに取り上げられているから売れている
テレビに出なくなったら落ち目だと言う感覚。
そんな大衆の批判や評価に迎合せず、
または右往左往せず、
我が道をひたすら極めて行く「人」になれ!
富さんの年賀状の筆文字の問いかけに、
僕は自分なりの「答え」を導き出した。
芸能人になるな
芸人になれ!
タレントや有名人、アーティストや何者でもない
僕が「南島詩人」を生涯の肩書きに決めたのは
まさに!その時だったのかも知れない。
人生において大切なことは
「良い出会い」これに尽きる。
それが、まぎれもない僕の実感である。
(南島詩人/平田大一)
※YouTubeでは、平田大一さんの肉声で放送中!
※毎月1日と15日に隔週で連載していきます!
どうぞお楽しみに!!
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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 09:58