シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2016年05月15日

新・シマとの対話~第26話「サイン(前編)」

写真・桑村ヒロシ

いつもそうだが
初演の舞台というのは印象深い。

「沖縄偉人劇 屋良朝苗物語 一条の光を求めて」
2015年12月20日読谷村文化センターでの舞台初日、
読谷・嘉手納の学校への呼び掛けに応えた出演者は僅かに十数名。
かくして一人三役・四役の配役になり、
「屋良朝苗」役にも女子(知花杏樹さん)を抜擢した。
ただ、結果としてそれが良かった。

屋良先生の大衆に対する慈愛に満ちた行動は
教育者としての「母性愛」そのものだし、
「鈍角的政治手法」や「布石論的思考」等の
しなやかな行動力学でなければ
「復帰」という大偉業は成し遂げられなかったと
確信するからである。

民衆に寄り添う「母性」と、
権力に立ち向かう「父性」と両方を持ち合わせた
「人間 屋良朝苗」の実像が浮かび上がり、
満員の客席から大きな拍手を頂き大成功であった。

僕は、初演の感動も冷めやらない年明けに、
不思議な「感」が働いて「那覇市民会館での再演」を
考え始めていた。

噂で、老朽化に伴い会館の使用制限が出ると聞こえてきたからである。

44年前、復帰記念式典会場であった那覇市民会館での
屋良舞台の上演はこの機を逃してはあり得ない!
と東奔西走し、短期戦にもかかわらず上演が実現できることは
奇跡であり、関係者の尽力に心から感謝申し上げたい。

否!
むしろ、全てに意味があったんだと思う。

開演時間の午前10時半と午後2時も
様々な都合でそう決まったのだが、
後から44年前の政府主催の復帰記念式典開始時間(午前10時半)と、
新生沖縄県主催の発足記念式典の開始時間(午後2時)と
ぴったり符合していることにも気がつき
鳥肌が立った。

「舞台」に導かれてここに立っている感覚に
自分の行く末を観た。


前略 南ぬシマジマ

余りにも不思議な偶然が重なる出来事にふと、考えたんだ。
こうなると公演日の5月14日にも、何か意味があったのか…と。
とてつもないドラマを感じて、屋良先生の手記を紐解くと
「時計に見いった14日深夜」のページに釘付けになった。

14日夜の高等弁務官夫妻主催の晩餐会は、午後11時頃まで約3時間も続いた。ランパート高等弁務官は、「15日から私は沖縄にいてはいけない人間だ」と言われ、15日の午前零時を期して沖縄の地を離れることとなった。

晩餐会が終わると、高等弁務官夫妻はその場から嘉手納米空軍基地に 直行した。私達夫婦も見送りのため同基地に向かった。待つことしばらく、実際には4、5分程度だったろうが、私は一心に時計に見入り「あと1分」「あと10秒」と数えた。時計の針が15日午前零時を示した。その瞬間、新生沖縄県が誕生した。遂に復帰が実現したのだ。

終戦後27年間、異民族支配下のさまざまな出来事が走馬燈のように私の頭に去来した。その不健全な、仮の時代にいま終止符が打たれた。まさに万感こもごも。歴史は転換し、未来に向かって発展しゆくスタートラインに着いた。

私は基地の中で周囲を見渡した。しかし何も変わるモノがない。復帰の 瞬間、船や役所、工場は、汽笛やサイレンを鳴らすことになっていたが、広い基地内にいたためかそれも聞こえなかった。感慨無量とは言うものの、復帰の実感はなかなかわかなかった。

午前零時、高等弁務官は弁務官旗をたたみ、それを納める儀式のあと、たくさんの見送り一人ひとり別れの握手をして機上の人となった。特別機が実際に離陸したのは午前零時15分ごろだった。
(「屋良朝苗回顧録」より)

そうか…、
44年前の1972年5月14日は、アメリカ世最後の日だった。
アメリカ統治下の午後11時59分59秒と復帰を果たした午前零時!
44年前の5月14日は、まだ別の国だったってことか。

目に見える境界線はないが、「時間」とはそう言うものであり、
初めて「復帰」をリアルに感じた瞬間!

関わる全ての出来事が「気づき」へのサインなんだと、
また一つ、舞台から教わった気がした。

 (南島詩人/平田大一)


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 どうぞお楽しみに!!

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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 17:53