シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2016年02月17日

新・シマとの対話~第21話「ハードとハート」

写真・桑村ヒロシ

「心技体でなく、体技心である」

文化庁主催の会議の場にて出席していた
狂言師「野村萬斎」氏は、
静かな口調でそう発した。

次世代に伝統文化を継承する意義を
説明するときのことである。

教育の現場で語られる「心技体」ではなく、
大切なことは「体技心」と彼は言う。

まずは「型」を身につけ、
やがて「技」が磨かれ、
そしてそこに「心」が宿ると語る野村氏。

確かに!
伝統文化には古来からの「型」がある。
その「型」の修得を図る事が第一段階、
「型」に「妙技」を加え第二段階、
やがて「魂」が宿り最終段階になるわけで、

初心者に、
初めっから「心」を修得しろと言うのは
ハードルが高いと言わざるを得ず、
結果、若い世代の「伝統嫌い」のみが
進行するのはその為でもある、と。

日本人であるコトを実感する為に
伝統の型を身に付けることは意義深いものであり、
頭が理解する前に、
実は身体が理解することなのである、
と、実に理論整然とした話に
胸にストンッと何かが落ちた。

まずは「型」から始まる…。
「伝統」がナゼ偉大か、
あらためてその意味に感心した瞬間であった。


例えば、舞台「鬼鷲」の稽古の始まりは、
まず「声出し」次に「空手」の型の修得である。
男女、問わず「空手」を徹底的に覚える。

「よーい、構え!…型ッ!」とリーダーが言うと、「天地!」と全員が呼応する。
空手の型「天地」を修得すると言うことは、
発声が良くなり、背筋がシャンと伸び
集団としてやがて統一された
「方向性」が示されるから、不思議だ。

例えば、フラの練習の前の
「オリ」と呼ばれる「祈りのウタ」を、
みんなで声を揃えて発する瞬間、

例えばトップアスリートが競技場に入る際の
必ず行なう習慣、

成る程「型」の修得は様々なところでも
重要な役割を担っているのかも知れない。


「前略 南ぬシマジマ」

読谷村の伝統芸能の
座喜味棒を久しぶりに見た時に「ハッ」と、
思い出したんだ。

舞台「The Drumming」でやりたかったこと、
新しい祭を作る!新しい伝統芸能を作る!
と、息巻いていたものの、
座喜味棒の「伝統の型」を前にして
僕は激しく実感したんだ。

ああ!僕は!
こう言う有無を言わさない、
圧倒的なエネルギーに溢れた舞台を
作りたかったんだ!と。

生で発せられる声と、奏でられる音、
そして修錬された「伝統の型」の美しさと
「誇り高さ」に溢れた眼差しに、
「説明」も、「分かりやすさ」もいらない!

ストーリーの分かりにくさ…
録音された声の聞き取りづらさ…
プロモーションのまずさ故の集客の足らなさ…

出演者とスタッフの頑張りに応えきれなかった
中心者である、演出家の僕の責任からの、
上げればキリがないダメだしに、
自問自答を繰り返していた矢先、
よほど悔しかったのか、夜中、
気づいたら歯噛みし過ぎて下唇が切れて
腫れている。

どうやら夢の中でも、演出プランの
手直しのつづきを考えていたみたいだ。
下唇の痛みに夜中に目が覚めて、
一人、苦笑いした。

そして、目覚めた瞬間、野村萬斎さんの、
あの発言を思い出したんだ。
「心技体でなく、体技心である」

まだまだ全てにおいて、未完成の舞台内容に
実はこっそり、落ち込んでいたんだけど、
座喜味棒の演舞にまた!メラメラと火がついた!

必ず!出来る!
いや!まだまだ、やりたい事がある!
必ず、やれる事がある!

僕が目指している「祭」は、
やっぱりまだまだ先にあるみたいで、
不思議な闘魂にヤル気が漲ってきた。

僕のライバルは、何百年も続く伝統芸能である!
古の島人に負けない、圧倒的な闘魂に満ちた、
命を寿ぐ祭を作ることこそ、
僕が、やりたいことである。

新たな祭、創造の幕は開いた!
今はまだ僕には、その「達成感」はない。
だけど、確実に、やりたい事はある!
その実感だけはあるコトは確かだ。

「祭」と言う名の「型」をつくろう!
「心」と「型」が備わった、伝統芸能を創るんだ!

その炎が、
今日も僕を走らせる!


 (南島詩人/平田大一)


YouTubeでは、平田大一さんの肉声で放送中!

毎月1日15日に隔週で連載していきます!
 どうぞお楽しみに!!

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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 12:51