シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2015年12月01日

新・シマとの対話~第16話「巨人の肖像」



1972年、昭和47年5月15日。
沖縄は日本に復帰した。

この時期を頂点として前後およそ8年の間、
県民は文字通り復帰運動の渦の中に巻き込まれ、
不安動揺し激動を繰り返した。

その間。
沖縄の将来の歴史を左右するような重大な問題が次々と発生、
それらの諸問題に対し、直接かかわり判断を下さなければならない
責任ある立場として最も苦悩し誰よりも奔走した
一人の男がいる。

前半4年間を行政主席の職にあり、
後半4年間を復帰後初代知事として活躍した
『屋良朝苗』その人である。

生まれは読谷村瀬名波、
決して大きいとは言えない集落の貧しい家の出身で、
幼き頃から苦労をかじりながら勉学に励み、
やがて教員に。

その人望から県を代表する教育者となり、
沖縄の自治を勝ち取るため全国を駆け巡った経験から
いつの間にか復帰運動の牽引役に抜擢された。

『復帰は絶対に不可能』
『復帰実現など神話でしかない』
と言われた歴史転換の大偉業を成し遂げ、
新生沖縄建設に尽力した巨人は、ただひたすらに

沖縄県民の未来を想い、子ども達の将来の為に
不可能を可能にする努力を惜しまなかったのである。
         (沖縄偉人劇「屋良朝苗物語」オープニングシーンより)

戦後沖縄をつくった偉人を描いた劇「屋良朝苗物語~一条の光を求めて~」
の舞台演出の依頼があったのは昨年の夏のこと。
脚本家の大城貞俊先生の出版記念パーティーでのことだった。

元来、演劇を苦手として避けて来た僕が、
屋良朝苗物語に関して「心が動いた」のは何故だろう、と
自分自身でも不思議に思うが…
その一方で、やらねばならない必然的な力を実は感じてもいた。

「現代版組踊シリーズ」として、
阿麻和利や尚巴志など、数百年前の歴史上の人物を
扱った舞台は創作してきてはいたが、
意外に近現代の沖縄史を背景にしたストーリーに
取り組んだことがないことが理由のまず一つ、

そしてもう一つは、
「大河ドラマ」のように一人の主人公を切り口に
ある時代を紐解いて展開していくドラマチックな作品なら
手掛けてみる価値はあると思えたからである。

かくして「沖縄偉人劇シリーズ」と銘打った、
演出家、平田大一の新たな挑戦が始まった。

屋良朝苗顕彰事業推進期成会の山内徳信会長は、
不思議なくらいの人間力を持った方で、
1974年、39歳で読谷村長に就任、
1998年に退任されるまでの6期、23年半をかけて、
現在につながる読谷村発展の起因を作った方、
読谷では「神様」と心から信頼を集める程の人物。

僕の前に座った山内会長が僕にこう言った。
「脚本、大城貞俊、演出、平田大一。
この沖縄で今現在、最高にして絶対無二の二人を以てすれば、
我が期成会の事業は全て完了する!
今回の演劇創作は次世代の心中に永遠に崩れない
『屋良朝苗』と言う顕彰碑、銅像を建立するようなモノでもある!」

これまで手掛けてきた手法とは違ったカタチでの舞台制作を目指し、
僕が演出助手に抜擢したのは今帰仁村が拠点の劇団ビーチロック主宰者
「新井章仁」君である。
以前観た作品で彼が作り出す、映像と音楽には一目をおいていた僕は、
今回の舞台制作には彼の才能が不可欠だと思っていた。

映像と音楽と演劇を駆使した舞台、
そうして、テレビドラマの様な舞台のオープニングシーン
「巨人の肖像」の構想が生まれたのである。

オープニングシーンはこう続く。

物事を考え込みすぎる余りに出来る
その眉間の「たてじわ」をさして
『縦じわの屋良さん』と多くの人から慕われた屋良朝苗。

彼がどんな難問にぶつかり、悩み、そして乗り越えたか。
それを知り学び自分自身の問題として考える一人一人になることが、
屋良朝苗の目指した「沖縄の姿」なのかもしれない。

『悲観はすまい、されど楽観もすまい。我、一条の光とならん』
        (沖縄偉人劇「屋良朝苗物語」オープニングシーンより)

それが戦後の巨人、屋良朝苗の残したメッセージだった。

前略 南のシマジマ

今年10月25日に生誕の地、読谷村字瀬名波に建立された
「屋良朝苗顕彰碑」の碑文にはこう彼を称える詩が、刻字されている。

うふにしゆんたんざに、屋良朝苗ありて
残波荒波にあらがい、不屈の偉人(ひと)となる
暗黒の戦後沖縄に、一条の光さし入れ
うまんちゅのあがめる、にぬふぁ星(ぶし)となる
いつの世なりとて、燦然とあらむ
いつの世なりとて、燦然とあらむ!
             (屋良朝苗顕彰碑 碑文より)

今月12月20日。
いよいよ舞台の幕があがる。

本番までに越えねばならない山はまだまだありそうだが、
僕のイメージの世界、
脳内舞台での完成した作品は
今、最も僕が観劇したい作品に仕上がっている。

   (南島詩人/平田大一)

写真・桑村ヒロシ

YouTubeでは、平田大一さんの肉声で放送中!

毎月1日15日に隔週で連載していきます!
 どうぞお楽しみに!!

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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 20:06