シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2015年08月01日

新・シマとの対話~第8話「タイムカプセル」



「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。
しかも一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に」
(森 信三  一日一語より)

2011年「ハワイ・エイサードラム・フェスティバル」を立ち上げた
「シャーリー玉城」さんを紹介してくれたのは、
元ハワイ沖縄連合会会長で、2008年の「肝高の阿麻和利ハワイ公演」
実現の立役者、「ジョン糸村」氏だった。
「ダイイチさん、ハワイにはエイサー団体が幾つかあるけど、
彼女はそのどこにも属していない。つまり、本当のプロデューサーなんだ」。
ジョンさんはそう言って、ニヤニヤいたずらっ子のような顔で
「彼女は、ハワイのダイイチ・ヒラタなんだよ」と、笑った。

折しもハワイのエイサー大会が始まった2011年、
僕は県の文化観光スポーツ部長として世界中を飛び回っていた。
その年に予定されていた「第5回世界のウチナーンチュ大会」と
連動した取り組み「世界エイサー大会2011」に参加しないか?と、
世界中のエイサーシンカ(エイサー仲間)に声を掛ける旅を
敢行していたのである。

ロサンジェルス、ニューヨーク、ペルー、アルゼンチン、ボリビア…
そしてハワイ。
驚いたことにどの地域の「ウチナーコミュニティー」に行っても
「沖縄文化」は盛んで、飛び抜けて若い世代に「エイサー」は大人気だった。
言葉が通じなくても響き合う「太鼓のサウンド」に、
記憶の奥底に眠る「ウチナーンチュDNA」が覚醒するからなのだろうか。

世代交代が進むと同時に「若い世代の県人会離れ」が顕著になる中、
ルーツとしての沖縄再発見の鍵に「エイサー」や「沖縄文化」は
重要な意味があるようだと、あらためて僕は感じていたのである。

2011年10月「世界エイサー大会」本番の日、
僕の呼び掛けに答えてチームを編成したハワイウチナーンチュ達は、
オーディエンスを熱狂させる演舞を披露してくれた。
「沖縄のエイサーを基調としながらも、願わくば、
各地域の特色ある文化を織り込んで貰えないだろうか!
それを、世界エイサーの定義にしたい」。
と言う僕の要望に応え、
ハワイチームは「フラとオリ(踊りと祈り)」をミックスした
新しい感性でのエイサーを作りあげて来てくれた。
全体を統括するプロデューサーとして初めての来沖を果たした
「シャーリーさん」と再会した僕は、感謝の想いを表すとともに
「来年、2012年のハワイエイサー大会に沖縄県を代表して出席するよ」
と約束したのである。

今にして考えて見ると「シャーリー玉城」の存在は
象徴的だと言える。
エイサー団体が世界中にあっても皆エイサー団体の一員であって
シャーリーさんの様な「縁の下の力持ち」的な、
どの団体にも属しない人がプロデューサーを担っていることは無かった。

その為か「エイサー」を中軸に据えた沖縄系イベントは海外には無く
「ハワイ・エイサードラム・フェスティバル」のように、
ハワイが実現できた理由には彼女の存在が必要不可欠だったのである。

2012年5月。
第2回「ハワイ・エイサードラム・フェスティバル」に約束通り参加した僕に、
「ハワイアンの詠唱(チャント)と、沖縄の祈りの歌のコラボが出来ないか」
シャーリーさんから僕へのリクエストはシンプルだった。
彼女の引き合わせで実現したネイティブハワイアンの血を継ぐ
「カヴィカ・ナポレオン教授」とのコラボは
エキサイティングでそれでいて厳粛な空気を醸し出し、
ハワイと沖縄の共通項を確認することが出来た、
素晴らしい経験だった。

2013年には、世界エイサー大会会長として「創作芸団レキオス」と参加、
2014年は、糸満を拠点に活動する「古武道太鼓集団風之舞」を引き連れての
参加を実現、僕自身の「ハワイと沖縄の絆」をつなぐ活動は、
年をおう毎に深まっていったのである。

今年、2015年はある意味特別な節目の年でもあった。
ハワイ州・沖縄県友好締結30周年、
ハワイ・エイサードラム・フェスティバルが5回目、戦後70周年に加え、
あの5年に1回の「世界のウチナーンチュ大会」を来年に控えた
プレイヤーイベントとして、県知事やハワイ州知事のイゲ氏をも巻き込んだ
一大企画にまで発展したのである。

ハワイ・エイサードラム・フェスティバル5周年特別企画。
舞台「DRUMS OF HOPE~希望の鼓動~」は、
これまでの野外で行う発表会型イベントを一新し、
ハワイ沖縄センターを会場に舞台転換を行う劇場型有料ステージに様変わり、
演出家「平田大一」、プロデューサー「シャーリー玉城」の、
出会いから5年間の集大成の取り組みになった。

出演者は団体、個人合わせて全14組、総勢150名余り。
地元ハワイから、ちなぐエイサー、ヌウアヌ少林流空手、玉城流扇寿会、
獅子舞のHOCA(ハワイ・オキナワ・クリエイティブ・アーツ)、
安冨祖流絃聲会ハワイ支部に加え、三線演奏の若夏キッズ、
そして今回の為に立ち上げたハワイの次世代チーム
ちむドンハワイが参加してくれた。
沖縄からは、昨年の世界エイサー大会で「アロハスピリッツ賞」を受賞した
創価沖縄かりゆし太鼓と、僕の私塾南島詩人アカデミーメンバー、
そして物語の重要な役回りとも言える、福島からは、
チーム息吹と、大川渓流太鼓の仲間達が駆けつけてくれた。

特筆すべきは特別ゲストの、ハラウ(教室)フラ・カ・ノイアウと
クムフラ(先生)マイケル・ピリ・パン、
そして、音楽仲間の宮沢和史氏が友情出演してくれたことである。

更に会場設営から、チケットの販売、駐車場係まで、
ハワイ沖縄県人会の有志が総動員であたり、
それでも人手は足りず、沖縄や日本から駆けつけてくれた
応援団ツアーのサポーターズメンバーまで駆り出されていたが、
でも、みんな楽しそうにせわしなく動き回っているのが印象的だった。

進行台本も、ナレーションも、映像も、音楽のキューサインも
本番ギリギリまで調整作業が続けられていた。
出演者が大勢いる、この手の舞台ではたいていそうだが、
今回もリハーサルで全員が揃ったことが一度も無く、
本番の昼公演が事実上の「ゴージャスなリハーサル」になってしまったが、
その割に緊張感がありメリハリの効いたスムーズな舞台運びとなった。
きっかけのタイミングなどのミスは多少あっても、
大きなトラブルは全くなく、昼公演は大成功に終わったのである。

夜公演に向けたミーティング中に意外な出来事があった。
琉舞を踊る幼い子ども達は、本来はその家庭の方針で、
終了時間が遅い夜公演には出演できず、
昼公演のみで帰宅することになっていた。
ところが、昼公演の興奮とこの舞台の主旨が伝わったのか
保護者から、是非ともこのまま夜公演にも出演させてほしい、
子ども達もそれを願っているからと、出演OK!の許可が出たのである。

僕は心底嬉しかった。
些細な出来事ではあるが、こう言う小さな「改革」が、小さな「変化」が、
大きな感動の渦を生み出す大切な要因であることを、
これまでの経験上で僕は沢山見てきたからである。

夜の公演は、更に勢いを増し、観客の反応にも助けられ、
会場全体が大きなグルーブ(うねり)感に包まれた。
休憩無しの2時間越えの内容は今後の修正課題として受けとめるが、
舞台と観客の垣根が無い、場内総出のカチャーシーは圧巻だった。
宮沢氏もマイケル・ピリ・パン先生も、ハワイも沖縄も福島も、
気持ちを一つに踊る姿に、今回の舞台の大きな意味が物語られていた。

最後に大きな「人のレイ」を作り、
みんなで歌った「ハワイアロハ」では、
何故だか涙が溢れてきた。
そして、僕は溢れる想いとともにハワイの先生
「マイケル・ピリ・パン氏」の言葉を思い出していた。

「他国から占領されたハワイの人々は自らの文化、
 ハワイアンとしての存在そのものを否定されることになった時、
 その想いを『フラ(踊り)』に隠し未来のハワイアンに託す事にしたんだ。
新たな時代が訪れたその時に、我々の子や孫はきっと気がつくはずだ。
『フラ』には、ハワイの言葉があり、ハワイ独自の歴史があり、
何よりもハワイアンとしてのスピリッツが備わっていることを」。

そして彼は語った。
「フラは、『タイムカプセル』なのです」。


前略 南のシマジマ

偉大なる先人はこう言った。
「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。
しかも一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に」

人と人が出逢うときの、不思議さの謎が解けた気がした。
僕も、そして君も、全て託された「メッセージ」の
その受け取り人の一人なんだ。

そして僕もまた、未来のこのシマの「島人達」に、
この「大いなるメッセージ」を託せる詩人になりたいと
心から願った。

   (南島詩人/平田大一)

写真・桑村ヒロシ


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毎月1日15日に隔週で連載していきます!
 どうぞお楽しみに!!

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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 22:30