シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2015年06月01日

新・シマとの対話~第4話「ミスキャスト」



2010年11月。
就任2期目を向かえた沖縄県知事仲井眞弘多氏は、
公約として「文化観光スポーツ部」の創設を掲げていた。
これまであった「観光商工部」と「文化環境部」を解体し
新たな部局を設置。

その機構改革にともない要職である新部長は
民間人を登用するとも明言していた。

年明け2011年1月には
沖縄県議会が臨時招集され新部設置が承認可決、
世間の注目は部局長人事に集まった。
新聞には様々な憶測の記事が掲載され
文字通りの「目玉人事」として、
その人選作業に連日新聞紙面が賑わっていた。

僕に、仲井眞知事本人からの「部長就任要請」の連絡が入ったのは、
臨時議会可決の翌日であった。
県行政の動向やニュースなど、ほとんど縁が無かった僕には
まさに青天の霹靂、正直、事の重要さを全く理解していなかった。

後日、県庁内部の組織図を見て愕然とする。
組織表の上から役職順に「知事」「副知事」と来て
「部長」のポジションが記載されていた。
つまり本来なら、公務員採用試験を受けて経験を重ね、
班長(係長)、副参事、課長、参事官、統括官と上がって来て
やっと定年を前に就くことが出来る行政職最高の役職が
「部長」なのである。

国会で言えば「大臣」と同じ役割を担う県政の「部長」。
当然、県議会においては議会答弁しなくてはならない重要なポスト、
仲井眞知事はその新設した「文化観光スポーツ部の初代部長」に、
当時42歳の僕を指名したのである。
新聞の記事には
「琉球政府時代から数えても42歳部長誕生は後にも先にもこれだけ!」
「この異例人事は第2期仲井眞県政のアキレス腱になるか!」
などと大きく書かれた。
「…ミスキャスト!」
口には出さなくても、誰もがそう思ったに違いない。

2月初旬。
僕は知事と二人だけで知事公舎にて面談した。
知事の意見は概ね以下のようなものであった。

かつて県庁内において「観光商工部」というくくりで
発展してきた沖縄の観光は、
文字通り「物産」や「お土産品」など
従来型の「目に見える価値」を如何に作り購入戴けるかを命題に、
進められて来ていたところであった。
今後は「文化」と「スポーツ」と言う沖縄に潜在的にある素材の、
マグネット(磁力)を更に強化し「観光」とマッチングさせることで
「付加価値」や「魅力」を最大限に引き出し
国際競争力のある沖縄、
情報発信力のある沖縄を創出することが必要である。
最終的には若い世代が憧れる新たな産業、
新しいシゴトのカタチをつくっていくことを平田さんには期待したい。
全責任はわたしが取る!思い切って取り組んでほしい!
そう言って大きく頷いた。

僕の人事を巡り、
周辺の反対意見を押し切ってでも進めようという、
仲井眞知事の行政改革断行のその決意たるや
並々ならぬものがあると激しく想像がついた。
僕に課された使命は「常識に囚われない県政の展開」であり
「新たな県庁内の新たな仕組みづくり」であると
自覚するところとなったのである。

2011年4月2日。
僕は正式に「文化観光スポーツ部長」に就任した。
折しも、3月11日に起きた東日本大震災の影響で
日本全体が先行き不透明な暗い影に覆われた直後の
新たな船出となった。

「ダイナミック県庁!」と言う名の、
期間限定「平田劇場」が盛大な効果音とともに、
確かに今、開幕したのである。


前略 南のシマジマ

僕がラッキーだったことは…
一つは「ミスキャスト」と言われたことであり
もう一つは「配役する側の気持ち」が分かることだ。

誰もが期待していない逆境的状況の中で
僕だけが僕へのキャスティングを冷静に分析し、
配役してくれた演出家の予想を
上回る、それ以上の「演技プラン」を示せるか…
全ては「役者側」の力量にあることを僕は知っていたからである。

「よし!見ていろ。期待以上の感動で返して見せる!」
キャスティングされる側の心の内を
僕はあらためて実感として感じていた。

その上で「腹を決めた」僕は一つの提言をした。

新たなこの部の部長は、「現代版躍奉行」のようなモノであり、
沖縄全体を総合的に演出する『沖縄全県版芸術監督』のようなモノである。
そして、この部の目指すスガタは、文化・スポーツを基調として、
他部署との連携やマッチングを図る
「感動産業クラスター構想」を実現させることである!

僕の提言を黙って聞いていた知事は、やがて一言
「ほうッ」と、息をついた。


   (南島詩人/平田大一)

写真・桑村ヒロシ


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 どうぞお楽しみに!!

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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 09:00