シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2015年05月01日

新・シマとの対話~第2話「100年先の夢を見る」



何かが始まる「時」と言うのは、何の力もかからない。
肩の力も入っていない「力み」が無いから良いのかな…。
否!多分、「100年」と言う響きに、誰もがロマンを感じ、
無責任に夢を描いても許される。
そんな心の遊びと勢いがあったからなんだと思う。
そう、とくにあの日の「宮沢君」のキラキラした瞳と、
島唄20年に掛かる使命感メラメラの情熱が、全ての始まりだった。

2012年3月。
友人の宮沢和史君から、僕のもとに急に一本の電話が入った。
「ああ、平田くん、今から、時間ある?少し会いたい。10分でいい」。
「え!宮沢君?今、どこ?那覇なの?」とゴニョゴニョ返事する内に、
その当時の僕の職場である県庁8階にソッコー到着。

いつもは、言葉数少ない彼だけど一言ひと言が格好良い宮沢君、
だけどこの日はよく語ってくれた。
勿論!言葉数が多くてもやっぱり格好良かったけれど。

自分が思いついたことを誰かに語りたくって仕方が無い少年のように、
ほんとに!そんな感じで語る
「『島唄』という歌への思い」「三線のこと」「沖縄民謡界の現状」
など云々。

そして、突然、フッと宙を見て、一瞬考えて、
言葉を選び直してこう言ったんだ。
「黒木(くるち)を植えたいと思っているんだ」。

三線の棹となる黒木。
現在沖縄県産のものは極少数となり、
材料のほとんどを輸入に頼っている状態なのだそうだ。
また、黒木の生育は遅く、棹の材料として使えるまでになるには
100年以上かかると言うらしい。
このままでは、純粋な沖縄県産の三線は無くなってしまう…。

自身の曲「島唄」誕生から20年。
節目を迎えるこの年に、宮沢君は1つの想いにたどり着いた。
「自分を育んでくれた沖縄への恩返し…自分の仲間である
沖縄ゆかりのアーティストに声をかけ、
例えば黒木の植樹のようなことは出来ないだろうか」

今は数十センチの黒木の苗木が100年後大きな木となり、三線となり、
その三線の音色が沖縄中に響いていますように!と願いを込めて。

思いを語るだけ語って最後に、
「誰かに話しておきたくってね。聞いてくれて有難う、じゃあ!」
とだけ言い残して、風のように去って行った。
その間、本当にわずか10分!
実感としては随分、長い時間に感じたけど。

宮沢君の話を聞き、そして僕は考えた。
「三線の神様」「琉球音楽の始祖」と言われる
「赤犬子(アカインコ)」ゆかりの土地「読谷村」こそが、
黒木の杜を育んでゆくのに最適の場所ではないか!と。

宮沢君の想いが100年先までカタチになるように、
その想いに賛同する人が集まり、
「くるちの杜100年プロジェクトin読谷実行委員会」を立ち上げた。

言いだしっぺの宮沢君は名誉会長に就いて貰い、
会長には石嶺村長が就任してくれた。
副会長には村内外の名士がずらりと並ぶ豪華な顔ぶれ。

具体的には、年に一度のイベント開催を目指し、
例えば、毎年新たな黒木を植樹するだけではなく、
これまでの黒木の成長を皆で確認し喜びを分かち合う時間
「歌って飲んで黒木を愛でる時間」を創りたいと考えた。
商工会青年部の仲間が集う居酒屋で夜な夜な議論し、
遊び心満載の企画書が作成された。

「くるちの杜プロジェクトin読谷~第一回くるちの杜コンサート開催案」
日程:毎年、旧暦9月6日(クングヮチルクニチ=クルチぬ日)を中心に!
場所:読谷村世界遺産「座喜味城の麓」にて!
時間:明るい時間~夕方くらいまで
内容:新たな黒木の植樹/今ある黒木の傍らで、宮沢さんとその主旨に賛同した
音楽仲間達によるミニコンサート/美味しく食べる、飲む、愛でる。
毎年黒木の成長を見ながら飲みたい人、三線の音色を愛する人、100
年後もいついつまでもこの沖縄が平和であることを願う人、想いを共に
できる人ならどなたでも「くるちの杜プロジェクト」メンバーです。
実行委員会への参加、大大大募集致します!
            (「くるちの杜プロジェクト」呼び掛けチラシより)

2012年10月20日、
旧暦ウチナー暦では9月6日の「くるちの日」。
第1回目のイベントは大成功した。
多くの人達の力が集まって
ゆるゆるした楽しい時間が流れる素敵な青空に、
宮沢君が歌う20年目を迎えた「島唄」が流れていった。

「前略 南のシマジマ」

これからやらなきゃいけないことは、山ほどある。
本当に、生まれたての取り組みだ。
「100年」と言うコトバの持つ重みもずしッと来る。
だからこそ、肩の力を抜きながら、
遊び心にあふれた真面目な取り組みを続けて行こう!
目をキラキラさせて少年のように語ってくれた
あの日の宮沢君のような心持ちでさッ!

ふと宮沢君が呟いた。
「僕らは、100年先のくるちを見ることは出来ないけれど
 夢を見ることは出来る…」

今日もくるちの杜に風が吹く。
水平線の彼方、くるちの杜から見える青い海原から吹く風が、
二十歳を迎えた「島唄」の新たな息吹きを届けてくれた。
(くるちの杜100年プロジェクトin読谷実行委員会 筆頭賛同人)

   (南島詩人/平田大一)

写真・桑村ヒロシ

YouTubeでは、平田大一さんの肉声で放送中!

毎月1日15日に隔週で連載していきます!
 どうぞお楽しみに!!

書籍版『シマとの対話【琉球メッセージ】』
書籍版『シマとの対話』が販売中!
南島詩人・平田大一と桑村ヒロシ(KUWA)の写真が
コラボレーションした、情熱と感動の作品集!!(在庫僅少)

書籍版『シマとの対話【琉球メッセージ】
文:南島詩人・平田大一 / 写真:桑村ヒロシ(KUWA)
出版:ボーダーインク
発売日:好評発売中!
価格:¥1500(+税)
※通販でも販売中!

→ http://borderink.shop-pro.jp/?pid=15119540




Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 07:00