シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2010年07月19日

シマとの対話〜第II章その19『膝の前の友達でありたい』

Photo_KUWA
久しぶりに実のあるシンポジウムに出席した。
シンポジウムで涙ぐんだことは初めてだった。

日本のアンデルセンと称され
口演童話行脚で世界中を駆け回った
児童文化の父
青少年健全育成運動の草分け的存在
近代児童文化の開拓者の第一人者
「久留島武彦」氏の没後50年の
節目を記念する式典でのことだ。


「子どもの膝の前の、友達でありたい」
「私は種をまく人で、終始したかった」

そう語り続けた久留島氏は、
自身の活動を顕彰した「童話碑」建立の折にも
「自分の名前はいれないで欲しい」と言われ
自らの名前ではなく「童話のこころ」が全国に、
否!全世界に広がることを強く願ったという。

なぜ!
彼は「童話のこころ」を基調とした
児童文化、青少年の教育に力を注いだのか?


その久留島先生の生誕の地
大分県玖珠町での顕彰記念式典は
2010年6月27日。
彼の50回目の命日の日に行われた。

シンポジウムへの登壇者は4人。

一人目は、総合司会の「後藤惣一」先生。
「久留島武彦資料集(全4巻)」の編集者をされた元大分大学教授。

二人目は、全国童話人協会会長の「樫葉和英」先生。

三人目は、植民地時代の朝鮮半島での久留島武彦氏の活動を調査研究し
日韓の児童文化の架け橋となった「キム・ソンヨン(金成妍)」女史。

そして、四人目が地域に根ざした青少年主体の活動に対して
2002年に「久留島武彦文化賞」受賞した僕!「平田大一」

それぞれが、それぞれの立場で久留島先生への想いを語る。
一番、印象に残ったのが「金女史」の発表だった。

植民地時代の朝鮮半島での公用語は「日本語」。
家庭博覧会なるイベントの視察で
朝鮮半島を訪れた久留島先生に気がついた来場客によって
先生を取り囲んでの即席演台が用意され
そこで久留島先生の飛び入り口演会が開催された。

金女史が紹介したのはそのときの模様を報道した
朝鮮半島の新聞記事と掲載された写真!
小さな台の上にぽつん…と一人立つ久留島先生の姿を
何重にも、何重にも取り囲んだ人、また人の波が
幾重にも幾重にも折り重なった状態で燃え上がっているような
情熱的な光景にまず圧倒された。

口演童話の特徴はあくまでもマイクや拡声器を用いず
肉声のみで発せられるというから驚きだ。

そして極め付けが2枚目の記事と写真。
朝鮮半島の子ども達のアップの顔写真だが
大きく目を見開き、何か大きな口で「うわー!すげー!!」
とでも、聞こえてきそうな勢いのある写真。
その何かにビックリしたような表情は
日本人の子ども達と同じ好奇心に
わくわくした見事な表情をしている。

なんと1枚目の記事の写真に写っている人の数は
約2000人以上。
また、朝鮮半島に滞在中は
毎日こういう口演活動を行い
請われれば小さな会場でも積極的に行ったという。


金女史は言う。
「朝鮮半島の児童教育の未熟さと
自国の文化を軽視する傾向性を指摘して
『ゆえに、植民地にならざるを得なかったのである』
と、彼は結論づけ、報告書に記しております。
今日、彼の成しえた最も偉大なる偉業は
国づくりの根幹をも担う重要な役割として
児童文化・教育の醸成とシステム作りが必要不可欠であり
そのために新たな挑戦を次々と手がけてきたことにあります。」

なぜ!
彼は「童話のこころ」を基調とした
児童文化、青少年の教育に力を注いだのか?

それはおそらく未来の国づくりへの
大事な宝モノが何であるか
彼は熟知していたからだと僕は思う。

亡くなるまでの86年間、
主要な国々を踏破され世界中を歩き
口演童話というカタチで子ども達の心に
感動の灯をともしていった久留島武彦先生。

「私は、子どもの膝の前の友達でありたい」
「私は種をまく人で、終始したかった」

その彼の偽らざる心情に
僕の想いも交差して
不覚にも涙があふれる。

子どもの心の声に耳を傾けると…

「自信の無い大人」の不条理に
振り回され悲鳴を上げる
現代社会の子ども達の
悲痛な叫びのような声が
今日もまた、僕の胸に突き刺さるからだ…。

大人って何だろう。
本当の「大人」とは何だろう?

その答えを、僕は久留島先生の言葉の中から感じ取る。


 南島詩人/平田大一



Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 09:00