シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2010年02月15日

シマとの対話〜第Ⅱ章その14『「次」のはなし』

Photo_KUWA
カズヒコは特別養護支援学校に通う
高等部3年生の男の子だ。

僕が演出する舞台の特別出演が決まったことから
カズヒコ達の通う学校に演技指導のため
学校訪問した時、「彼」に出会った。

「みんな〜、集合して〜。」
下級生の後輩達が三々五々ワイワイと集まってくる中
カズヒコだけが、先生の呼びかけに
わざと逆らうかのように窓の外を眺めながら
チラチラと遠くから僕を見ている。

「今日は、平田先生がみえてますので、皆さん一生懸命頑張りましょう」
「はーい!」
元気な声が教室中に響き渡る。
だけど、カズヒコだけは益々外を向く。

先生がこっそりと
「実は、高等部3年生の出演希望者が意外に少なかったので…」と苦笑い。
…怖気(おじけ)づいたのか、羞恥心が出てきたのか
「下級生なんかとなんて、やってらんねーよ」ってな顔で
遠くからずーッとこっちを見ている。

この日の帰り際。
ずーッと、ずーッと!遠巻きに見ていた彼が僕の脇にすっと来ると
「平田大一さん…本物?」と突然、質問してきた。
えッ?えッ?と焦る僕。

再び、聞いてくる。
「テレビで見る人と、同じ?…本物?」
「うん、本物だはず…多分」と、僕。
そしたら「えへへ…」と鼻の下をふふんと拭った。
彼の少し悪戯好きな目に、笑顔があった。


2回目の稽古で訪れたときは
エイサー太鼓の帯を肩にかけ…待ち構えていた!

「カズヒコ、3年生なんだって?リーダーシップもあるし…
 実は、平田さんお願いがあるんだけど。」

彼に舞台の一番目立つセンターに立ってもらい
みんなを引っ張る牽引役をお願いしたら
照れながらも、一生懸命の演技!
でも、やっぱり思い出すのか
時々ぷいッと輪の外へ…。
そして、また遠くから見るばかり。

なんて!自己中な奴だ!
僕は、う~んと頭を抱えてしまった。

それからしばらくの間、
稽古には行けず、
そのまま本番の日を迎え、
舞台は一応の大成功

でも、カズヒコとは
あんまり話しが出来ないまま別れた。


ある日。
知人に声を掛けられて出席したある会合は
今の堕落した政治に不満を持つ
志し熱き人たちの集いで、登壇した誰もがみんな
「次の世代にいったい何を引き継ぐのか」
「この国の未来を思ったら立ち上がらねばと奮起した」
と次世代について真剣に考えているコメントが並んだ。

話しの意味は解かるが、どこか現実から離れていて…
人が生きている現場の空気感がそこには無いような感覚の中
でもその熱い想いに浸って家路についた。

家に着いたら、ポストにぶ厚い封筒が…。
見ると懐かしい支援学校からの舞台出演後の
感想文集だ。
嬉しくなってその場で封を切り一つ一つ読んだ。


綴りの一番最後がカズヒコの文章だった。
短くて、でも大きくゆがんだ鉛筆の文字。
変なイラストの意味も解からなかったけど
書いてあった言葉の意味は痛いほど解かった。


  ありがとうございまし
  た。
  こうはいたちおよろし
  くおねがいします。
           カズヒコ


どんな大人の「次」の話よりも
僕は胸に突き刺さって…

僕は
僕は…

その場で
泣き崩れた。

                南島詩人 平田大一


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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 09:20