シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2008年05月28日

第30話『風の道に立つ墓稜』(南島詩人・平田大一)

第30話『風の道に立つ墓稜』(南島詩人・平田大一)
「古人のあとを求めず
古人の求めたるところを求めよ」

優しい風が吹いていた。
読谷、伊良皆にある
「佐敷の森(さしきむい)」と呼ばれる
こんもりとした山の小さな道
優しい風が吹いて
そして、その風が僕を目的地まで導いてくれた。

第一尚氏の始まりを作った「尚巴志(しょうはし)」。
栄華を誇ったその偉大な王の墓が
生まれた沖縄本島南部の「佐敷」ではなく
中部「読谷」にあると聞いて訪ねてみたくなった。

国道58号線「伊良皆交差点」。
交通量も多い、その道から脇に入った小道
車の喧騒は掻き消えただ静寂な森の木立
僕はひたすら地図を頼りに目的地に進んだ。

第二尚志台頭のクーデターにともない
第一尚志の墓稜は焼き討ちにあう。
危険を察した家臣「平田之子」と「屋比久之子」の二人は
「尚巴志、尚忠、尚志達」の王家三代の遺骨を取り出し
決死の逃避行を敢行。
北山討伐の際の思い出の地「読谷」に
隠れ墓を作り埋葬したという。

1時間以上歩き回っても探すことが出来ない。
諦めて、車を停めた森の入り口まで戻った。
そして始めて気がついた。
入り口近くにある小さな小道。
小道の向こうから気持ちの良い風が吹いてくる。
その風の道が僕を導いてくれている気がした。

足を、一歩一歩進めるたびに湧き上がる確信!
この風の道の向こうに目的の「墓稜」はあるに違いない。
小道の脇をチョロチョロと清水が流れる。
どこか遠くで小さな鳥のなき声がしている。

最初に出会った小さな岩には「平田之子墓」。
僕はそっと手を合わせて心で語る。
「尚巴志さまを今もお守りされているのですね。
 どうか、この僕を、尚巴志王の元まで案内してください」
続いて現れた「屋比久之子墓」にも同様に合掌。

瞬間!ひと際大きな風が吹いた。
僕はゆっくり立ち上がり
その風の吹いてくる先に歩き出した。
そして、遂に「尚巴志王」その墓の前に立った。

静かな時が流れる。
自然と体が小さく震えた。

僕は大きく深呼吸。
ゆっくりと手を合わせ祈る。
「王よ、僕はあなたの舞台で一体何を伝えねばならないのか」
手向けた線香の煙が僕の体を包み込む
もう一回深呼吸、
「どんな結果になろうとも、後悔なき作品に!」
僕はゆっくりと目をひらいた。

答えはまだ見えない。
まだ僕も
物語の入り口にいる。


南島詩人 平田大一



Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 00:00
この記事へのコメント
平田大一さんはじめまして。このブログを読んで気持ちがよくわかります。勝連城での東儀秀樹さんとのジョイント『阿摩和利』の子供達のミュージカル最高に妻とともども感動しました。帰るときの子供達の満面の笑顔に沖縄の将来が明るくなることを思いました。今年の正月公演には行けませんでしたが、又行けるチャンスを沢山作りたいと思います。沢山のフアンの期待が高まる中、創作活動は大変かと思いますが支えているエネルギーがきっと後押ししてくれると思います。僕も妻も応援しています。
いつも感動をありがとうございます。
Posted by 真栄ちゃん真栄ちゃん at 2008年05月31日 20:10