シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2008年05月14日

第28話『赫ようらの花』(南島詩人・平田大一)

第28話『赫ようらの花』
若夏の訪れを告げる「赫い梯梧(でいご)の花」が
南の島では今年は咲いていないという。

昨年の台風の影響か
潮を被りまるで枯れて枝ばかりの木は
昔読んだ絵本の「もちもちの木」に出てくる
「豆たん」が怖がったあの大木そのもので
棘々しく晴れた空に影絵の如くそびえたっていた。


「梯梧の花」の思い出は、子どもの頃
牧場の真ん中に立つ「赫い花」の正体を
確かめたくって鬼線の鉄柵を
飛び越えたことがある。

真ッ昼間の牧場。

カンカンに照りつける太陽の下
目指す森を頼りに僕は歩いた。

ところが!
驚いたことにどんなに歩いても
あの見える森に辿り着けないんだ。

牧場は思いのほか広かった。

やがて黒い塊の牛達が
わらわらと姿を見せ始めた。
僕は彼らに気づかれないように
そーッと遠回りしてあの森を目指す。

じりじりとした時間が風とともに
吹いて行く。
よく、考えてみればわかることなのだが
牧場である以上そこには「牛」がいる。
それも、恐ろしく大きな体の牛達が…。

奇跡的に森に近づいたそのとき!
目の前の大きな茂みから
これまた大きな黒い巨体の雄牛が
僕の直ぐ目の前に姿を見せた。

鼻からしたたり落ちる液体と
不気味な嘶(いなな)き。
黒目の大きな眼差しに射抜かれて
強張った僕の身体に電気が走る!

頭が真っ白になって硬直した僕をじっと見つめたまま
ぷいっと行ってしまうまでの数分が何時間にも感じられたこと。
「坊ず、よく来たな…」
何度も何度もこだまする無言の声に背中を押され
僕は再び歩き出した。

そして遂に!辿り着いた。
その巨木は真っ赤な花が咲いている「赫ようらの花」。
散った花びらで木の下には真っ赤な絨毯が
一面に広がっているのが美しくって
僕は首の後ろがわさわさッと総毛立つのがわかった。

誰も見ていなくても咲き誇る
満開の赫い花。
怖さはいつしか遠い彼方にあった。


  「前略 南のシマジマ」

あんな冒険。
あれが、最初で最後の出来事だ。

今も時々
あの大きな黒い牛の潤んだ瞳を
思い出す。

そして真っ赤な花の「赫々(あかあか)」を
思い出す。

思い出してはまた
僕の中の「冒険心」が疼き出す。


南島詩人 平田大一




Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 00:28