シマとの対話

──沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在──  南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。  平田大一がつむぐコトノハと、KUWAこと桑村ヒロシの写真がつむぐ、「新・シマとの対話」。2015年4月15日より新連載スタート!(毎月1日と15日に更新予定)

2015年09月01日

新・シマとの対話~第10話「エイサー進化論」



旧盆のこの季節
僕が住む読谷のあちらこちらからは、
祖先をもてなすエイサー太鼓の音が風に乗って聞こえて来る。

青年会が中心で演じられる伝統的なエイサーは、
その起源は諸説様々ではあるが
始まりは福島県いわき出身の僧侶「袋中上人(たいちゅうしょうにん)」が
1603年、明国に渡る際に立ち寄った琉球に「念仏踊り」として
広めたことが由来であるという説が主流である。

写真・桑村ヒロシ

また島々で古くから祈りの歌とともに手拍子で奉納されていた
神女(のろ)や神司(かんつかさ)の女性達による演舞が
やがて「臼太鼓(うすでーく)」と呼ばれる楽器を持って演奏されるようになり
更に唐の国伝来の三線の普及でメロディーが確立され、
今の青年達の太鼓を持った勇壮な踊りに発展したとか…

或いは1609年の薩摩の琉球侵攻の為の準備として
「諜報戦略」つまり「スパイ活動」の一貫として
「旅芸人」京太郎(ちょんだらー)に身をやつした遊興芸人達が、
家々の間取りや武具などの調査のために道々を堂々と練り歩き
経文を唱えながら秘密裏に極秘情報を入手していたとか…

この道の研究者でないこの僕の浅い学では限界があるが
否が応でも「歴史ロマン」には事欠かない。
どれも興味をそそる内容に想いは尽きない。

写真・桑村ヒロシ

昨今のエイサーブームを受けて、
2010年沖縄県が立ち上げた「全国エイサー大会」は、
翌2011年の「世界のウチナーンチュ大会」と連動して
「世界エイサー大会」に名称を変更、
2013年からは僕が理事長を務める沖縄県文化振興会が
実行委員会事務局を担う「創作エイサー」をメインにした
エイサーイベントとして取り組んでいる。

どんな「伝統芸能」にも始まりがある。
今は「創作」「現代版」或いは「コンテンポラリー」と呼ばれる芸能も
いつかは「伝統」の称号が与えられるかもしれない。
時代の風と呼吸しながら時にカタチや様式を変えながらも
その「命」をつないで生きてきたのが「伝統」であるのなら、
伝統とは「進化」の過程に過ぎないのかも知れない。

そうだ!「芸能」とは常に「進化」しているのである。

以前までは「創作エイサー」と「青年エイサー」は水と油、
相反している存在でもあった。
「青年エイサー」の人達からは創作エイサーを指して
「あれはエイサーじゃない」と呼び
創作エイサー団体も「伝統エイサー」をリスペクトする余り
団体名から「エイサー」の文字を消した。

琉球國まつり太鼓、
創作芸団レキオス、
那覇太鼓、
古武道太鼓集団風之舞…
現在、積極的な活動を展開する主な創作エイサーチームと言えば
このように「エイサー団体」と自らを呼ばないのである。

もちろん、思いは別である。
誰よりもどこよりも「エイサー」への思いは人一倍強い、
エイサーが大好きな「エイサーシンカ」であることは間違いない。
「伝統」に対する配慮から、あえて「エイサー」を名乗らなかったのである。

2013年。「世界エイサー大会実行委員会」の会長に就任した僕には
大きな信念があった。
「エイサーの一つのカタチ」として「創作エイサー」を認知することである。
誤解を恐れずに言えば、新たな伝統を生み出す「伝統創出」への
本気の取り組みを展開する狼煙(のろし)をあげるべく
今一度「世界エイサー」のコンセプト構築を図ることにしたのである。
そしてそれらを大会会長の思いとして、
総合演出を担う意気込みとして
「檄文」にしたため発したのである。

写真・桑村ヒロシ

「進化するエイサー!その最先端が「世界エイサー」だ!」

芸能の「生命力」は、「伝統と未来」に根ざし、
「時代と次代」を呼吸すること。
そこに、「挑み」はあるか!伝統と革新、その新たな挑戦の息吹はあるか!
古人は言う。「自我作古。我れ、自ずから古となす。」
「『伝統』とは、生まれた時から既に『伝統』としての風が吹いている」と。

さあ!新たな島人よ!その燃える胸に問え。
新しい自分、新しい伝統、新しい文化創造の「新たな挑戦」があるやなしや!
衣装、楽曲、振り付け、全てにおいて1年間かけて準備してきた用意が
あるやなしや!
そして、「世界エイサー」この世界チャンピオンの称号を受けとめる覚悟が
本気であるやなしや!

世界に躍動するエイサーの生み出すエネルギーを実感すれば、
「エイサー」の、大いなる可能性と新たな使命が見えて来る。

亡くなった魂を弔うのが「伝統エイサー」ならば、
生きている魂を寿ぐのが「世界エイサー」だ!

汗を流してともに踊れよ!天高くまでバチを伸ばせよ!
命燃やして太鼓鳴らせよ!島を愛する君がウチナー!

さあ!命の祝祭を始めよう!
集え!しんかぬちゃー!我ったー島ヌ、シンカヌチャー!
進化を続けるエイサー、その最前線で、いざ!舞い踊れ!

(「世界エイサー大会2015」ホームページ巻頭言より)


前略 南ぬシマジマ

伝統とは「様式美」であり「型の成立」であるならば、
神あしゃぎ、道じゅねーとしての「伝統エイサー」
競技場発表演舞型としての「青年エイサー」
如何なる地域、性別、年齢を問わないボーダレス型としての「創作エイサー」
そして今新たな「スタイル」として生まれて来た
劇場を拝所として展開されるプロセニアムスタイル
いわゆる劇場演舞型の「世界エイサー」がここにある。

エイサーは進化し続けているのであり、
僕らはその時代の目撃者なのである。

   (南島詩人/平田大一)


YouTubeでは、平田大一さんの肉声で放送中!

毎月1日15日に隔週で連載していきます!
 どうぞお楽しみに!!

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Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 17:15