2008年05月21日
第29話『サバニ』(南島詩人・平田大一)

明け方間もない5月の海に
僕らは出た。
水面すれすれを疾走する小さな舟は
風よりもはやい
キラキラと光る風を幾つも追い越して
僕らは桟橋を背に
外洋広がる大海原に飛び出した。
「おじい!飛行機の時間に間に合うか!」
クバ笠を深くかぶったおじいは
片手で笠をしっかり掴み
もう片方の手でエンジンに直結した
舵を握るとふふんと鼻で一笑い
「あがや!黙って摑まっておれ!もっと、飛ばすど!」
言うが早いか野太いエンジン音が
また唸りを高めた。
朝6時過ぎの海の上は
誰も起きてこないマチみたいだ。
少し得した気分になる。
少し冷たい風に頬がぶるると震えると
僕を待ち望む「講演会場」の顔たちに
思いを馳せた。
途中。
浅瀬を慎重に渡る。
一気にエンジン音の唸りが低くなり
舟は波に身を任せるように流された。
ちゃぷちゃぷ舟底にあたる波、
海底の砂浜がすぐそこに見える・・・
「よ~んな、よ~んな行くど~」
おじいは呟きながら見事な腕前で
珊瑚と珊瑚の間の見えない潮の道を
ゆるゆると進んでいく。
「流されているように見えて操る。
いいか、ダイイチ。
流されるにも才能が必要さ~。解るか?この意味。」
おじいは舵を操りながら
急に「哲学者」の顔になっている。
「海は全部『道』さ~。舟のまわり360度ぐる~り
全部『道』でがあるわけさ。」
「哲学者」は続ける
「見えない潮の道を読んであるくから
おじいは凄いわけよ!うひゃ!!
あがや!しゅわは~すな(心配するな)。
わしと舟(こいつ)は一身胴体!ゆぬむんやさ(同じだから)
約束どおり、朝6時35分までに石垣の桟橋に着くど!」
真っ黒な顔に白い歯が光る。
おじいの腕にまた力が入った。
「前略 南のシマジマ」
ベッドに横たわった海人(うみんちゅ)が、
懐かしそうに僕に語った昔話に
僕は笑いながらこたえた。
あの時のおじーの早朝チャーター便で
大切な友との約束を果たせたんだ。
石垣島の離島桟橋横付けしてもらった僕は
その足で那覇行きの飛行機
始発便に飛び乗った!
お袋の手作りの弁当を飛行機の座席で開いたら
まだあちこーこーだった。
「おじい、また乗せてよ。おじーのサバニ。」
にかッと笑ったおじーの白い歯は
今も健在だった。
あの日。
桟橋横付けの後僕をおろし
そのまま白いタオルを
巻きなおし「おし!」と呟くと
颯爽と後ろ向きで手を振ってまた
海に還って行ったおじー。
老いてもなお!健在!
長生きをただ祈る。
南島詩人 平田大一
Posted by 平田大一(Hirata Daiichi) at 00:00│Comments(0)│TrackBack(0)
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