2008年05月28日
第30話『風の道に立つ墓稜』(南島詩人・平田大一)

「古人のあとを求めず
古人の求めたるところを求めよ」
優しい風が吹いていた。
読谷、伊良皆にある
「佐敷の森(さしきむい)」と呼ばれる
こんもりとした山の小さな道
優しい風が吹いて
そして、その風が僕を目的地まで導いてくれた。
第一尚氏の始まりを作った「尚巴志(しょうはし)」。
栄華を誇ったその偉大な王の墓が
生まれた沖縄本島南部の「佐敷」ではなく
中部「読谷」にあると聞いて訪ねてみたくなった。
国道58号線「伊良皆交差点」。
交通量も多い、その道から脇に入った小道
車の喧騒は掻き消えただ静寂な森の木立
僕はひたすら地図を頼りに目的地に進んだ。
第二尚志台頭のクーデターにともない
第一尚志の墓稜は焼き討ちにあう。
危険を察した家臣「平田之子」と「屋比久之子」の二人は
「尚巴志、尚忠、尚志達」の王家三代の遺骨を取り出し
決死の逃避行を敢行。
北山討伐の際の思い出の地「読谷」に
隠れ墓を作り埋葬したという。
1時間以上歩き回っても探すことが出来ない。
諦めて、車を停めた森の入り口まで戻った。
そして始めて気がついた。
入り口近くにある小さな小道。
小道の向こうから気持ちの良い風が吹いてくる。
その風の道が僕を導いてくれている気がした。
足を、一歩一歩進めるたびに湧き上がる確信!
この風の道の向こうに目的の「墓稜」はあるに違いない。
小道の脇をチョロチョロと清水が流れる。
どこか遠くで小さな鳥のなき声がしている。
最初に出会った小さな岩には「平田之子墓」。
僕はそっと手を合わせて心で語る。
「尚巴志さまを今もお守りされているのですね。
どうか、この僕を、尚巴志王の元まで案内してください」
続いて現れた「屋比久之子墓」にも同様に合掌。
瞬間!ひと際大きな風が吹いた。
僕はゆっくり立ち上がり
その風の吹いてくる先に歩き出した。
そして、遂に「尚巴志王」その墓の前に立った。
静かな時が流れる。
自然と体が小さく震えた。
僕は大きく深呼吸。
ゆっくりと手を合わせ祈る。
「王よ、僕はあなたの舞台で一体何を伝えねばならないのか」
手向けた線香の煙が僕の体を包み込む
もう一回深呼吸、
「どんな結果になろうとも、後悔なき作品に!」
僕はゆっくりと目をひらいた。
答えはまだ見えない。
まだ僕も
物語の入り口にいる。
南島詩人 平田大一
2008年05月21日
第29話『サバニ』(南島詩人・平田大一)

明け方間もない5月の海に
僕らは出た。
水面すれすれを疾走する小さな舟は
風よりもはやい
キラキラと光る風を幾つも追い越して
僕らは桟橋を背に
外洋広がる大海原に飛び出した。
「おじい!飛行機の時間に間に合うか!」
クバ笠を深くかぶったおじいは
片手で笠をしっかり掴み
もう片方の手でエンジンに直結した
舵を握るとふふんと鼻で一笑い
「あがや!黙って摑まっておれ!もっと、飛ばすど!」
言うが早いか野太いエンジン音が
また唸りを高めた。
朝6時過ぎの海の上は
誰も起きてこないマチみたいだ。
少し得した気分になる。
少し冷たい風に頬がぶるると震えると
僕を待ち望む「講演会場」の顔たちに
思いを馳せた。
途中。
浅瀬を慎重に渡る。
一気にエンジン音の唸りが低くなり
舟は波に身を任せるように流された。
ちゃぷちゃぷ舟底にあたる波、
海底の砂浜がすぐそこに見える・・・
「よ~んな、よ~んな行くど~」
おじいは呟きながら見事な腕前で
珊瑚と珊瑚の間の見えない潮の道を
ゆるゆると進んでいく。
「流されているように見えて操る。
いいか、ダイイチ。
流されるにも才能が必要さ~。解るか?この意味。」
おじいは舵を操りながら
急に「哲学者」の顔になっている。
「海は全部『道』さ~。舟のまわり360度ぐる~り
全部『道』でがあるわけさ。」
「哲学者」は続ける
「見えない潮の道を読んであるくから
おじいは凄いわけよ!うひゃ!!
あがや!しゅわは~すな(心配するな)。
わしと舟(こいつ)は一身胴体!ゆぬむんやさ(同じだから)
約束どおり、朝6時35分までに石垣の桟橋に着くど!」
真っ黒な顔に白い歯が光る。
おじいの腕にまた力が入った。
「前略 南のシマジマ」
ベッドに横たわった海人(うみんちゅ)が、
懐かしそうに僕に語った昔話に
僕は笑いながらこたえた。
あの時のおじーの早朝チャーター便で
大切な友との約束を果たせたんだ。
石垣島の離島桟橋横付けしてもらった僕は
その足で那覇行きの飛行機
始発便に飛び乗った!
お袋の手作りの弁当を飛行機の座席で開いたら
まだあちこーこーだった。
「おじい、また乗せてよ。おじーのサバニ。」
にかッと笑ったおじーの白い歯は
今も健在だった。
あの日。
桟橋横付けの後僕をおろし
そのまま白いタオルを
巻きなおし「おし!」と呟くと
颯爽と後ろ向きで手を振ってまた
海に還って行ったおじー。
老いてもなお!健在!
長生きをただ祈る。
南島詩人 平田大一
2008年05月14日
第28話『赫ようらの花』(南島詩人・平田大一)

若夏の訪れを告げる「赫い梯梧(でいご)の花」が
南の島では今年は咲いていないという。
昨年の台風の影響か
潮を被りまるで枯れて枝ばかりの木は
昔読んだ絵本の「もちもちの木」に出てくる
「豆たん」が怖がったあの大木そのもので
棘々しく晴れた空に影絵の如くそびえたっていた。
「梯梧の花」の思い出は、子どもの頃
牧場の真ん中に立つ「赫い花」の正体を
確かめたくって鬼線の鉄柵を
飛び越えたことがある。
真ッ昼間の牧場。
カンカンに照りつける太陽の下
目指す森を頼りに僕は歩いた。
ところが!
驚いたことにどんなに歩いても
あの見える森に辿り着けないんだ。
牧場は思いのほか広かった。
やがて黒い塊の牛達が
わらわらと姿を見せ始めた。
僕は彼らに気づかれないように
そーッと遠回りしてあの森を目指す。
じりじりとした時間が風とともに
吹いて行く。
よく、考えてみればわかることなのだが
牧場である以上そこには「牛」がいる。
それも、恐ろしく大きな体の牛達が…。
奇跡的に森に近づいたそのとき!
目の前の大きな茂みから
これまた大きな黒い巨体の雄牛が
僕の直ぐ目の前に姿を見せた。
鼻からしたたり落ちる液体と
不気味な嘶(いなな)き。
黒目の大きな眼差しに射抜かれて
強張った僕の身体に電気が走る!
頭が真っ白になって硬直した僕をじっと見つめたまま
ぷいっと行ってしまうまでの数分が何時間にも感じられたこと。
「坊ず、よく来たな…」
何度も何度もこだまする無言の声に背中を押され
僕は再び歩き出した。
そして遂に!辿り着いた。
その巨木は真っ赤な花が咲いている「赫ようらの花」。
散った花びらで木の下には真っ赤な絨毯が
一面に広がっているのが美しくって
僕は首の後ろがわさわさッと総毛立つのがわかった。
誰も見ていなくても咲き誇る
満開の赫い花。
怖さはいつしか遠い彼方にあった。
「前略 南のシマジマ」
あんな冒険。
あれが、最初で最後の出来事だ。
今も時々
あの大きな黒い牛の潤んだ瞳を
思い出す。
そして真っ赤な花の「赫々(あかあか)」を
思い出す。
思い出してはまた
僕の中の「冒険心」が疼き出す。
南島詩人 平田大一
2008年05月07日
第27話『奇跡の方程式』(南島詩人・平田大一)

「名作だから演じ続けられるのではない
演じ続けられるゆえに名作になりうるのである。」
あまわり舞台の原作者「嶋津与志」氏はそう語り
「乾杯」と小声で呟いた。
何だか納得してしまったんだ。
センセイの飄々としたその物言いが
余りに自然体であったから
僕の胸にストーンッと落ちてきたんだ。
あまわり舞台の取り組みが
国の大きな賞を戴いた祝賀会での
それがセンセイのコメントだった。
僕はいつも想っていた。
「歴史に残る作品を。語り継がれる作品を!」
でもそれって、言うは易く行うは難し。
簡単にはいかない。
ましてや今日、明日の自分さえも
見えていないというのに
将来の自分だなんて解りようがない。
傲慢にも程がある!
悩みながら導き出した答えは
未だ闇の向こう側だけど
だから今!
今を描き続けることの繰り返しの僕で行こう。
歩き続ける限り
僕は僕であり続けるんだから
僕は「詩人」であり続けるんだから。
前略 南のシマジマ
誰になんと言われても
僕が僕を認めよう。
圧倒的自己中心的な判断であったとしても
僕が僕に感動する。
僕が僕に感謝する。
僕が僕に共感する。
完全なる自己肯定!
それが「奇跡」を呼び込む方程式。
三拝云
南島詩人/平田大一




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